使い魔レンちゃん、向かうは敵なし!

8月前半




8月1日(水)

自分の部屋で昼寝している志貴さま。
志貴さまの部屋にはクーラーがないので、大変過ごしにくそうです。
窓を開けて、室内に風を通しています。

志貴さまはベッドの上で、毛布を掛けずに寝ています。
せめてお腹にだけでも掛けたらと思うのは私だけでしょうか。


コンコンとドアをノックする音が聞こえました。
誰でしょう?
どなたかが志貴さまに用事があるようです。

失礼します、と小声で言って入ってきたのは翡翠さんです。
翡翠さんは志貴さまに何の用事があるのでしょう……

翡翠さんは目を閉じている志貴さまの顔を見つめます。
穏やかな顔をしている志貴さまの顔を。

しばらく見つめていたと思ったら、どこから持ってきたのか、
椅子をベッドの側に置き、そこに座ります。
そしてじんわりと汗をかいている志貴さまを団扇でゆっくりと扇ぎはじめました。

ゆっくり風を送る翡翠さん。
起こさないように、音を立てずに扇いでいます。



夏の暑い一日。
自分が仕える主人を団扇で仰ぐ翡翠さん。
特に言われたわけでもなく自主的に。


風を送っている翡翠さんの顔には笑みが浮かんでいます。
好きな志貴さまを見ていられることからでしょうか。
それは翡翠さん本人にしかわかりません。

ゆっくりと流れていく時間。幸せな時間。
たまにはこういう何もない日も悪くないのではないでしょうか……



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8月3日(金)

また一昨日と同じような光景です。
志貴さまが昼寝をされていて、そばで翡翠さんが優しく扇いでいます。
翡翠さんは微笑みを浮かべ、扇がれている志貴さまは寝苦しそうにすることなく
彫像のように穏やかに目を瞑っています。

わたしは志貴さまの部屋が見える位置に張り出している木の枝の上で
そんな光景を眺めています。
そこはわたしの定位置。
志貴さまを見守る事が出来る大切な位置です。
わたしは気配を出来るだけ消して、音を立てないように部屋の中の二人をそっと眺めていました。

翡翠さんは疲れを見せることなく、自分の主人を扇ぎ続けます。
風の音で起こさないように、ゆっくりとゆっくりと。



と、突然。
わたしがいる木から鳥がバサバサと飛び立ちました。
気配を消していたわたしを見つけたのでしょうか。
音を立てて、鳥が羽ばたいていきます。

まずいです。
そんな音を立てられてはわたしが翡翠さんに見つかってしまうではないじゃないですか。
わたしはそっと部屋の方を見ました。


――沈黙。
部屋の中の翡翠さんと目が合ってしまいまいした。
木の枝に登っているわたしを、翡翠さんはいつもの無表情で見つめています。
一瞬の交錯。
してはいけない交錯。






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